海の天井

俺が水面へ向かって手を伸ばすとき
口から小さな泡がぷかり、喘ぐたび
青白い顔を伝う
漁網の塊が足をつかんでいる?
もがいても取れない
水面が遠い天井に見える


あなたは人の姿のままで
息をしているのかもわからない
口移しに息を継げたらいいのに
時々何か呟くように小さな泡が立ち上る
あなたの足下に絡みつく長いロープ

青白い顔が白く変わっていく
諦めたような目はうつろになって
腕を伸ばしたまま
顔は天を向いたまま
海の水底から見上げる天井
にきらきらと陽が映る

だから言ったのに、
とぼそりと言っても
もう私の口から泡は立たない
私の喉はえらが生え
脚は一つになって鱗に覆われた

もう行くわね
わたしは独りだけど
寂しくないの
自由に跳ね回る脚ができたから
あの光る天井の陽を浴びにいくの

蘭の会月例5月投稿作品 


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青い水柱と吹き抜けと

女の子たちがさざめき笑う
ショッピングモールの片隅にあるカフェは
今日の掘り出しものの話題でもちきりだ
ふらりと寄ってみたおばさんには
きらきらした若い香りが強すぎて
隅のテーブルでまばたきをしながら
耳にきんきん射し込みびっくりする

長い髪をした女の子たちの笑い声が響き
吹き抜けを駆けあがる
息をのまれて少し息苦しくなって
店をあとにした

吹き抜けに立つ青い水槽には
色とりどりの若い娘たちが映っている

水の中を飛び跳ねる水蛇たち

あぶくだけが立ち上る青い水槽の柱は
彼女たちの歓声を映して
天井から降り注ぐ光は青く染まり
ほの青く壁にも映し出す

ここは若い娘たちの楽園
水の中を自由に泳ぎ回る水蛇たち
のひとときの楽園
花のような光を髪にまとって
笑う

-「Gustav Klimt 水蛇II」より-



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紅と黒の唇

僕の胸に君を抱いて
紅い息をはき言葉をつぐんだ唇
で強く口づけする

あなたの腕の中は温かい
とほほえむ君の素直さが
冷たい僕の背中まで射る

(そんなきらきらした目で見ないでくれ)
僕はそんなに愛するような男じゃない

苦い口で呻くように背中をむけた
背中に君の上気した熱い額があたる

冷たくて気持ちがいいわ

そんなことはどうでもいいの、

君の言葉が僕の心臓を握りしめる

口紅を塗り直した君を駅まで送るとき
エスカレーターを最後まで見ることができなかった
君の後ろ姿に
初めて惹かれた日の残像
が映るのが怖くて

僕の冷たい背中で
全て自己責任だよ
と嘲う黒い唇が口角を上げる
ちょっと遊んだだけだ、そうだろ?

胸の痛みは君を思う痛みだよ
このまま君といたい
紅い唇が飲み込んだ言葉を
夜の空に煙と共に吐き出し
小さな業火を踏み消した



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