まだ幾許かの熱はあるのに

熱く、熱く、
駆け上がって
ただ今だけを──

2人だけの部屋にいて
他の何ものも関せずただ
互いの求めるものを強く
絡みあわせた

好きだ、すきだ。

切なく鳴く君とつながりあい
燃えて立ちのぼる君の
胸元から全身がくれないに染まるとき
弾けていく私のたましい

好きだ、すきだ。

確かに2人はそれを求め
喜びとしてきたはずなのに
でも何かが違うと思った瞬間から
離れて生きることを見つめた

けして嫌いになったわけじゃない
私にもわからないんだよ
今も君の声を聞くたびにホッとしているくらいだ

今も肌が染まる君の姿を瞼の底に見ている
あの時君は無心で一人高く飛んでいく
私はそれを地上から見つめている
愛おしく思いながら
君を抱きしめて離したくないと思いつめた月日

黄昏の日はふいに差し込み
いきなり呼び戻す声に怯えた
夕日を見つめながら
振り返ってしまったんだ
私は本当に愛していないのではないかと
君は今更遅いと怒るだろう
でも
好きだけでは良くないのだと
遅すぎた季節を感じてしまったんだ
体は今も君ばかり思っているのに
くれないに染まる君の反り返る姿を
思い出しているのに

まだ心に熱は残っているのに
私の中に黄昏を感じるんだよ



蘭の会月例7月投稿作品 


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伸びる

新芽が伸びる
空へ 空へ
降り注ぐ日の光へ向かい

悩む事なき若い芽の
足下まで注がれる光は今
まっすぐ届いているか

根腐れも捻れもなく
ゆるやかに爽やかに吹く
風の先に時の流れを感じ取り
慈しむ心は育っているか

逞しく立つまでの時間
絶えることなく
朝に夕に 日と月の光を
受けて若芽よ 伸びよ
竹林の風の音 清かに
耳に届くが如くに



蘭の会月例6月投稿作品 


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虚空

後頭部のスクリーンに映る影絵は
どんだけ簡略化していくんだろう


あなたと出会った時わたしの
海馬は好きだと即座に反応した
それは機械的と言えるのか、
気分を作り出すシナプスの連続は
大脳ではなく。


前頭前野より早く駆け巡ったあの
輝きは
嘘だったのかと思うほどに
わたしから
あなたは抜け落ちていく


隙間が少しずつ広がって
向こう側に空が見えた
影絵の向こうに
曇りの空が虚しい風を
側頭葉へ送る


黒い風ぐるまがひとつ
カタカタと回っていた
夕暮れの虚しさに似て
消えゆく名残に
何の感慨もなく
ただ過去へゆく風に瞼は
少しだけ揺れるのだった



(即興)



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バックミラーに映るものを

胃液が這い上がるような夜に
バックミラーに映りこむのは


誰何して聞こえる筈もない過去の影が
白い幽霊のように揺れては消えて
頭から被った布団のなかから覗いた


懐かしさより悲しみと苦しみを
愛しさよりやぶれかぶれの倦怠を
なぜ今思い出させるの



ユーディットのけだるさを
感じる夜は
背中が重いから

どうか静かに眠らせて
死の隣に限りなく近いほどの深い
眠りを私にください



(即興)



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Tangoは夜に

忍び足もそのヒールでは足音を
消せないだろう?
堂々とステップを踏んでおいで

君の瞳が潤んでいるのを見逃すほど野暮じゃない
突き合わせた膝のピクリと動いたのも
視線を外すのも見ていたよ
全てお見通しさ

赤いランプの下で
カフェテーブルには飲み干したグラスが2つ
ジンが僅かに残った瓶が一本
床には君の高いヒールとドレスと僕のシャツが乱れたまま
ベッドの上には君

頬合わせて踊り明かそう
その手を握りしめて
アルゼンチンスタイルで時々絡まる君の脚が
僕を奮い立たせる

もう忍び足ではない君は耳元で囁く

  Could you dance again?



蘭の会月例5月投稿作品 


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